卒業論文
論文題目
ダイヤモンド(100)表面における反応ダイナミクス
論文要約
第1章 はじめに
- 背景
ダイヤモンドは全物質中最大の硬度・熱伝導性を有する、化学的に安定であるなど他の物質には見られない優れた特性を多く有する魅力的な材料である。このため、近年から様々なダイヤモンドに関する研究、特に表面反応に関する研究が盛んに行われている。
しかし、現在の時点では表面反応自体はわかっていても、その反応機構については全く分かっていない。ゆえに、ダイヤモンド表面に対する更なる研究、つまり反応のダイナミクスを解明することが重要となる。
また、最近のコンピュータの性能の発達によって理論計算による研究も精度を上げてきており、その信頼性も高くなっている。これからの研究は実験による研究結果と理論計算による研究結果をどちらも参考にしていくべきであろう。
- 本研究の目的
本研究の最終的な目的はダイヤモンド(100)表面上の反応のダイナミクスを計算によって理論的に解明することであるが、その前に実際に計算に用いるべきクラスターモデルは何かということを検証している。
計算プログラムにはGaussian 94を用い、計算手法にはPM3とHF/6-31G*を用いた。また、表面反応の例として水素分子の吸着反応を用いた。
第2章 ダイヤモンド(100)表面における反応ダイナミクス
- 使用したクラスターモデル
本研究で用いたダイヤモンド(100)表面を再現するためのクラスターモデルは次の2種類である。
Model 1は数々の論文でも用いられているもっとも小さなクラスターモデルである。Model 2はModel 1を少し大きくしたものである。なお、灰色の球が炭素原子、白色の球はダングリングボンドを埋めるための末端水素原子である。
- 計算方法
先程提示したクラスターモデルが本当にダイヤモンド(100)表面を再現しているのかを検証するのが本研究の目的である。そこで実際に次の二通りの計算を行って、これらのクラスターモデルの検証を行った。
- C-H結合長の影響
末端水素原子の位置、すなわちC-H結合長によってクラスターモデルの表面構造及び反応エネルギーが変化しないかを検証する。無論、変化しないことが望ましい。
- 再構成の影響
ダイヤモンド(100)表面が形成されるときに、何層分の炭素原子が動くかを検証する。ちなみにどこがどの層であるかは下の図の通り。
- C-H結合長の影響
- 計算結果及び考察
計算結果から以下の2点について考察を行った.
- C-H結合長の影響
まず表面構造の変化について調べて見たところ、Model 2ではC-H結合長による影響は見られなかったが、Model 1では影響が見られた。また、エネルギーについて調べてみたところ、同じような結果が得られた。ゆえに、Model 1よりもModel 2を使うべきだということが言えた。
- 再構成の影響
表面の炭素原子のみ、第2層の炭素原子を含む、第3層までの炭素原子を含むという3つのパターンについてそれぞれで炭素原子を動かせるようにしたところ、表面の炭素原子は大きく動いていることが分かった。しかし、第2層の炭素原子は動いているようだが、エネルギー的にはほとんど変化はなかった。第3層の炭素原子については動きもしなかった。これより、表面の炭素原子だけを動かせばよいということが言えた。
- C-H結合長の影響
第3章 まとめ及び今後の展望
以上の結果をまとめると、次のようなことが分かった。
計算に用いるべきクラスターモデルはModel 1ではなくてModel 2である。
エネルギー的な解析をするなら表面の炭素原子だけを動かせるようにすればいいが、表面構造などの解析をするには表面の炭素原子のみならず第2層の炭素原子も動かした方がより精度の高い結果が得られるだろう。
また、今後の展望としてはこのクラスターモデルを用いて実際に表面反応のダイナミクスを解析することが望まれる。